春道堂の冬の風物詩、創作百合根料理をコース仕立てでご提供する百合コース、今年も大変にご好評いただいております!
どうして百合根だけのコースを作ろうとしたのかをお客様に尋ねられることが度々あるのですが、それを説明するには祖父母の代から三代にわたる百合根との深い縁について語らねばなりません。
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私の母の実家は代々米農家でしたが、母が子供だった頃に百合根も作りはじめました。
百合根の栽培には広大な土地が必要で大変な手間もかかるので、夏場は電気も水道も電話もない芦別の山の奥の小屋に祖父母が住み込んで百合の世話をしていました。
祖父が建てた青いトタン張りの小屋の入口に「熊出没」と書かれた看板が張られていたことを今でも印象深く覚えています。
私もたまに泊まりに行っていたのですが、明りはランプ、水道は湧き水を引いたもの、煮炊きは真夏でも薪ストーブに火をつけて行い、風呂は薪で沸かした屋外の五右衛門風呂、トイレは畑の中にある掘っ立て小屋でトイレットペーパーの代わりに少年マガジンを切ったものが置いてあり……
と、非常に野趣あふるる環境で、開拓当時の北海道移民そのままみたいな暮らしでした。
付近に街灯はなく、見える範囲に民家もなく、車もめったに通らず、日が落ちると小屋の外は漆黒の闇で、空には覆いかぶさってくるみたいに大量に星があり、またたく音まで聞こえそうなくらいでした。今になって思えば、ずいぶんと贅沢な体験をしたものです。
すでに祖父母も亡く、山奥の小屋も使わなくなりましたが、あの頃も今も百合根は高級食材です。女性の進学率が高くなかった時代、母は百合根のおかげで高校に行かせてもらえたと言っていました。
母が高校に進学できなければ郵便局に勤めることもなく、同じ郵便局員の父と知り合うこともなく、私が生まれることもなかったはずです。
私のお店も百合コースのおかげでたくさんの方にお店に来ていただけますし、三代に渡り私たちの人生を支えてくれている百合根には心から感謝します。
今でこそ百合根を深く愛する私ですが、偏食だった子供のころは百合根が好きではありませんでした。
うす甘い繊細な味は子供にはつまらなく、それ以上に百合の花の根っこだと思うと何となく気持ち悪くて、いくら高級食材だと言われてもありがたく感じられず、カレーにまで入っているのをよけて食べていました。
なので3年前に母から「良い百合根を農家さんから分けてもらえるので店で使うなら送るよ」とメールが来た時も、好きじゃないし使い道が少ないから断ろうと思いました。
しかし、その時たまたま百合根好きの友人と一緒だったため、百合根を使った百合根だけのコースを作ったらおもしろいかもと半分冗談で盛り上がり、ひと箱送ってもらうことにしました。
後日、届いた百合根を使っていろいろなお料理を作ってみたところ、これが百合根が苦手だった私もびっくりするくらい、どれも非常においしかったのです!
百合根は味に一切のくせがなく、火の通し方によってホクホクにもシャキシャキにも食感が変わります。裏ごしすれば繊細な味わいの百合根まんじゅうにもなります。
子供の頃は毛嫌いしていたけど、百合根というものはたいへんに料理のし甲斐がある素晴らしい食材なのだと、この年になって初めて気付きました。
しかもおいしいだけではなく栄養にもすぐれ、むくみ解消に効果的なカリウムや腸内環境を改善する食物繊維が多く含まれます。漢方では古くから滋養強壮、鎮静などに使われ、更年期の精神不調にも効果があると言われています。
百合根はまさに女性のための食材! 女性のためのお店である当店が百合コースを始めたのは、もはや宿命としか言えません!
ところで、なぜ百合根コースではなく百合コースなのかと尋ねられることがあります。
語感が良いせいもありますが、百合根があまりに身近だった私や母や親族たちは百合根のことを「百合」と呼んでいたので、私にとっては百合コースという名前のほうがしっくり来ます。
母に「百合あるけど送る?」と聞かれれば、花ではなく根の方だとわかりますし、百合と言う呼び名は、私たち百合農家の子孫にとって慣れ親しんだもので、いわば親愛の証です。
今こうしてブログを書いていても何度も「百合」と書いたあとに根を足して「百合根」にしているくらい、百合と呼ぶ方が普通なのです。
この話をしても信じてもらえないことがあり、どうしたものかと思っていたら、芦別の道の駅に寄った際に動かぬ証拠を見つけました。
ゆりね羊羹じゃなくてゆり羊羹!
やっぱり! 我ら親族だけではなく縁深い人は百合根のことを百合と呼ぶのが普通なんだ!
これでようやく信じていただけますね。
そんな百合コースもご予約締め切りが近づいてきました。11月30日までにご予約いただけたら12月でも1月でも確実にご用意いたします。
12月以降は百合根のストックに余裕がある間はご予約を承りますが、集大成コースでも使用しますので、在庫が薄くなってきましたらご予約を終了させていただきます。
百合コースを食べられるのはおそらく世界で春道堂だけです。記憶に残るおいしさをぜひこの機会に!